ジロール麹町 きのこカフェ

「困りごと」になる前に、気軽におしゃべりしてみよう。
社会や地域への入口が身近な場所にありました。

 

きのこカフェはどんなところ?

ジロール麴町は、千代田区では初となる小規模多機能型居宅介護をはじめとする地域密着型サービスに特化した高齢者施設です。
半蔵門駅に直結する場所にあるので、ご存知の方も多いかもしれません。「きのこカフェ」はその施設の1階にあります。
平日は14時から16時まで、土曜・祝日は11時から16時まで、誰でも利用できるカフェとしてオープンしています。
また、同所はケアラーズカフェ、オレンジカフェとも呼ばれる「認知症カフェ」としての機能もあり、認知症の方とその家族が、地域の方や介護・福祉・医療の専門家と交流できる場として開放されています。
今回は、ジロール麴町の職員でカフェの運営をしている柴山さんにお話を伺いました。

 

――きのこカフェは、どんな方が利用されますか?
普通のカフェとして利用する方がたくさんいらっしゃいます。ビジネスマンの方や、若い方、子連れの方も多いです。
高齢者施設に併設されているので高齢者の利用ももちろん多いのですが、カフェで出会った地域の若いお母さんとお年寄りの方が触れ合う瞬間があったりすると、嬉しいですね。
「認知症カフェ」というコンセプトに縛られすぎない雰囲気の中で認知症や介護に関して興味がある方は声をかけてくださいます。
また最近は勉強会や懇談会など、情報交換の場として利用していただくこともあります。
きのこカフェで開催するイベントには地域向けのものもありますので、気軽に来ていただきたいです。

―売店スペースもあるのですね!


ここでは、全国の障害者福祉施設でつくっている商品を取り寄せて販売しています。
商品を目当てに来店される方もいらっしゃいます。
このドライフルーツは、この施設用に作っていただいているんです。
1個250円、5個で1000円にしてもらって、ちょうど食べきりサイズなのでOLさんに人気です。

 

あえて「仕組み化」しない
オープンで居心地の良い場所

―認知症カフェは曜日を決めて開かれているところが多いイメージですが、ここは常設なのですね。
実は去年、きのこカフェは一年間のうち302日もオープンしていました。
「どうして常設なのですか?」とよく聞かれるのですが、気が付いたらこんなに開けていたんだと私自身もびっくりしました。でも、私たちにとってはそれが当たり前という感覚でした。
同施設では利用者さんとスタッフが家族みたいな関係で、お家のようにくつろげるような環境づくりや関わり方をしています。見学にいらした方から「利用者さんみんなが笑顔でびっくりしました」と言われる施設なんです。
施設内と比べたらきのこカフェでは地域の方とも関わることも多いですが、本質的には一緒なのかなと思います。
きのこカフェは交流スペースとしてもオープンな場所で、人を集めるというよりは「待つ」というスタイルをとっています。
例えば今、地域の課題として独居の方の引きこもりがありますが、要請が入ってから形式的な対応をしていてはなかなか血のかよったコミュニケーションはできません。
それはそれで大事なのですが、もっとその手前のところで、ぽろぽろとお話ができるような場所になれば良いなと思っています。
認知症カフェが仕組みになってしまうと、プログラムの内容や利用者数など「何をやっているか」ということを整えようとしてしまいますよね。
それだとやっぱり当事者の方は辛くなってしまうのかなと。

―利用者さんが心地良いと思える空間づくりの工夫を教えてください。
他の認知症カフェではアンケートや個人情報などをとっているところがよくありますが、きのこカフェでは聞かないようにしています。
本当に親しくなってきて、聞いても良ければ聞かせていただくというスタンスです。
だから居心地が良いのかなと思います。
これは当事者の方が教えてくれたことなのですが「ちょっと入ってみようと思ったら自分たちが池に放たれた魚みたいに囲まれて、いきなり困ったことないですか?と聞かれては、さすがに戸惑ってしまう」と。
その通りだなと思いました。
ですので、初めてお会いした時の距離感などは特に意識しています。

認知症のご家族からの相談も
「悩み」と「希望」を持ち寄れる場所

―当事者の方のご家族からの相談などはありますか?
ある日、近隣にお勤めの男性が職場の人からこの場所のことを聞いたことがきっかけで、カフェにいらっしゃいました。
最初はひとりで座ってお茶を飲まれてましたが、少し時間が経ってから「ここってどういうところなんですか?」と声をかけてくださいました。
そこからご自身のお話をしてくださっていたちょうどその時に、デイサービスの男性スタッフが来て、その二人でしばらく話をしていました。
その方は「母が最初はデイサービスをすごく嫌がっていたのに、今は楽しそうに通っています。やっぱり最初の頃のことって忘れちゃうんですかね」とぽろっと話してくれました。
それに対してスタッフが「お母さんは通っているうちに、そこが一つの居場所になったんですよ。一人で過ごしているよりも、きっとそこで過ごしている時間が良い時間になったから楽しくなってきたんですよ」と話をしてくれました。
その男性はハッとした様子で。
お母さまの介護について「これでいいのかな?」と不安に思っていたんじゃないかなと思います。
帰りに「自分のやっていることが、間違ってないって思えました」と笑顔になってくれました。
ここはカフェを利用する方だけでなく施設スタッフにとっても、普段の利用者さん以外の方と会うことで色んな思いや悩みを知り、自分の考えを伝える良い機会になっていると思います。

「困りごと」になる前に
もっと気軽に将来を話せる場所

 


―介護について今は困っていなくても、いずれは考えないといけないことですよね……。
今、介護の相談に行くとなると、本当にもう逃げ場がなくて切羽詰まるまで我慢してからの方がほとんどなのかと思います。け
れどそうなる前にサポートがあれば、全然違ってくるんです。それには「接点」が必要で。困りごとがあったら相談するのでは
なく、自分で先をちょっと描いた時に「う~ん、どうなのかなあ」と話せる場所や情報が意外とないのかなと思います。介護問
題や認知症問題など「課題」みたいに捉えないで、おしゃべりしてみようよ。というかんじで来ていただけたら嬉しいです。
関わる事で分かることがたくさんあるので、気軽にお話しに来ていただける場所でありたいですね。

―人と人とのエピソードってなにがあるか分からないからこそ、面白いですね。
施設のここのスタッフも、普段施設にいるとケアする人とされる人という役割になっていても、ここに来るとその関係が平らに
なったりするみたいです。最近入った新人さんがお年寄りに人生相談をしていたり。利用者の方もそれが喜びになっているみた
いです。そういう心地良い関係って良いですよね。

 

きのこカフェで感じる生きる力


―カフェにいらっしゃるご高齢の方と接していていかがですか?
老いや最期について考えることって、大事なことだと気付きました。
自分の人生の何十年も先をゆく先輩がここでお茶を飲んで話しているのを聞くだけでも、人生や未来を考えるきっかけにもなるんだと思います。
元気で最期まで笑顔で生きていくというのを体現している方が、地域にたくさんいらっしゃいます。
そういう方に触れ合っていただける機会を提供できたらなと思います。
お肌はしわしわになっているかもしれないけれど、生き抜いた力っていうパワーを感じられます。
なかなか表現が難しいのですが、きっと介護が必要になると、人の力を借りて自分に折り合いをつけながら生きていくことになると思うんですよね。
それを受け入れていくということができた方の新しい力のようなものが、言葉がなくても伝わってくるんです。
いらっしゃるだけで、こちらが何かをいただいている気持ちになるというか。

―柴山さんの雰囲気がとても魅力的で、なにか心掛けていることなどはありますか?
関わった人が喜んだり、輝いてくれるのがすごく嬉しいんですよね。
私はどちらかというと話すことよりも聞くことの方が好きかもしれません。
その中で、ちゃんと相手のことを知るために、自分もうまく話を繋いだり、言葉を引き出すことで相手の方が話したくなる雰囲気をつくることを大切にしています。
そして動きたいとか、言葉にしたいとか、もっているものを出していただけるように関わることが好きで、やりがいを感じています。
それにせっかく同じ時間を過ごすんだったらやっぱり良い時間にしたいですからね。

認知症は不幸なことではない
地域への「入口」としてのきのこカフェ

写真右端)きのこカフェの運営を担当している 柴山さん

―地域の見守りが自然とできる場所ですね。
認知症の当事者の方から「認知症になる事は大変なこともあるけれど、不幸ではない。それが人生なんだ。色々再構築することがあったから、また経験することができた」という言葉を聞いたことがあります。
老いから目を背けたり怖がったりするのではなく、ちょっとずつ受け入れていくこと、マイナスではなくて人生の完成に向かっていっているんだと考えること。
認知症になっても自信をもっていただきたいし、自分もそうしていきたいと思っています。
今、空気を読んで自分を出せない人が多いと言われますよね。
認知症の当事者さんのお話を聞いていると、認知症だということを周りに言ってサポートを得ることが一度できてしまえば楽になる方が多くいらっしゃるように感じます。
けれど今も偏見があったり、家族に恥ずかしい思いをさせるんじゃないかとか、そういうことを気にして言いたいけれど言えないということになってしまうみたいです。
最近思うのは、子どもがその風潮を突破できるのかもしれないということです。
認知症のイメージが「物事がわからない、覚えていない」と思われてしまったら辛いですけれど、偏見がない子どもたちが当たり前のように個性として受け入れてくれると良いなと思います。
高齢者の方と関わる機会はゼロではないですし、ぜひ知ってもらいたいです。
街の中でもそうなったらいいですよね。スマホをずっと見ているのではなくて、ちょっとそばの人を気に掛ける、そうして優しい街になっていくのではと思います。
今、自分の周りに介護のこととかを話しづらいなと思っている方がいたら、ここを思い出してもらえると良いなと思います。
私たちも福祉を狭く捉えすぎずに、地域や社会で「入口」を作るという役割も果たしていきたいと考えています。

―きのこカフェさんが描く未来を教えてください。
認知症があるとかないとか関係なく、一緒に笑顔で過ごせる姿がたくさん見られるカフェであるといいなと思います。
役割を持っていたいとか、生きがいや喜びを持っていたいというのを皆さん持っていて、それが当たり前になること、生きていくことを応援していきたいです。
それを迷いながら、考えながらやってみて、共に成長していく場になれたら。誰かの場所ということではなく、そこに集まるその人その人が主役になれる場所でありたいです。

社会福祉法人新生寿会 高齢者福祉施設
ジロール麹町 きのこカフェ
東京都千代田区麹町 2-14-3
開所日  月曜~金曜 14:00~16:00
     土曜・祝日 11:00~16:00
休所日  日曜
電話番号 03-3222-8750