お江戸のおはなし Vol.12 旅行業と観光スポット
旅行業と観光スポット
旅行が盛んになったこの時代、お江戸は京都・奈良と並び人気観光スポットとなりました。旅行に欠かせない観光ガイドが多く存在し、宿屋に専属することで地方からやって来た観光客の求めに応じ、江戸の見どころを案内しました。馬喰町で宿屋を営む刈豆屋は、観光ガイドを置き江戸観光案内の摺り物(非売品の木版画)を発行して宿泊客に配るサービスをしていたようです。販売されていた江戸切絵図という折り畳みできるタイプのものは人気があり、江戸名所の情報源である「江戸名所図会」などの名所本の需要も大きく、ガイドブックの出版も盛んだったようです。この他にも、歌川広重の「名所江戸百景」をはじめとする浮世絵は尾張屋などの版元にとっても重要な観光ビジネスであり、江戸土産としての需要も大きいものでした。
庶民も楽しめる江戸城の年中行事、大名家の定例登城では、江戸城の正門である大手門で参勤交代による全国の諸大名の行列を間近で見ることができました。お城に入れるのは大名だけなので大手門は何組もの従者たちでごった返し、それがお江戸の風物詩にもなっていました。大名の下城を待つ間その場を離れられない従者たちのために、近辺には握り寿司や蕎麦、お菓子や酒の立ち売りがいて、各大名の鎗や乗り物の情報が掲載された「武鑑」も販売されていました。また冬の北西風による延焼から江戸城を護るために定火消の役屋敷が設置され、定火消の組織の旗本・与力・同心の下に雇われた「臥煙」と呼ばれる中間(ちゅうげん)たちが注目されました。真冬でも常に法被一枚と褌だけで全身に刺青の気の荒い男たちと四十八組の町火消が体現する「火事と喧嘩は江戸の華」は若者たちの憧れであり、人気の観光スポットでもあったのです。
(「お江戸案内 パッケージツアーガイド」を参考にしています)