お江戸のおはなし Vol.13 買い物天国

買い物天国

 五街道の起点である日本橋の北側、魚河岸は早朝から江戸前の新鮮な魚を商う卸や行商が集まる活気に満ちた江戸の台所で、「一日に千両の落ちどころ」といわれるほど巨額の商いが行われていました。有名な呉服店もありましたが、ほとんどの大店は武家や裕福な商家相手の掛け売りが基本でした。江戸っ子たちはというと、高価な反物から仕立てられたお金持ちが袖を通した古着を着るのが普通だったのです。古着を扱う古着屋街が日本橋富沢町や橘町、柳原土手にありました。古着屋の店先には着物が吊るされていて、江戸っ子だけでなく江戸詰めの侍や旅行者で賑わいました。駿河町にある現銀掛け値なしの三井越後屋では旅行者でも反物や切り売りを買えたので人気だったようです。駿河町を抜けたところは薬種問屋が多く、なかでも滑稽本の著者・式亭三馬が経営していた薬種問屋では婦人病の薬や育毛剤が販売されていて、特に女性に人気だったのがおしろいののりが良くなる化粧水「江戸の水」でした。その他にも袋物(カバン類)や紅(化粧品)の有名店も軒を連ねており、もう少し足を延ばした十軒店には五代将軍綱吉が京都から招いた人形師によって開かれた人形店が立ち並び、節句に開かれる人形市が華やかな賑わいをみせていました。

 文政7年に出版された「江戸買物独案内」は江戸の飲食店や商店を数千店も紹介している優れもので、旅行者のショッピングガイドとしては勿論、参勤交代の地方武士も利用していました。日本橋はショッピングだけでなく人の賑わいも楽しみの一つで、小腹がすいたら屋台の寿司や天ぷら、団子を食し、天秤棒で商品を売り歩くぼてふりからところてんや飴を買い食いするのも旅の良き思い出でした。お江戸の賑わいが聞こえてくるようですね。
(人文社「お江戸案内パッケージツアーガイド」を参考にしています。)