変人と高校生をつなぎ“出る杭を育てる” 株式会社 オプンラボ

介護×コミュニティづくりに取り組む柴さん(左)、小林さん(中央)、アパレル業界の人材マッチングサービス会社を経営する窪田さん(右)

近未来ハイスクール

窓は全開、梅雨明け前の生暖かい風が廊下を吹き抜ける。
1限目の「人間と社会」の授業の始まりを知らせるチャイムと共に、「変人」たちが教室に入っていく。
待っていたのは、都内の商業高校の1年生、男女35名。
変人たちは皆、カジュアルな出で立ちで爽やかに生徒たちの前に立った。
生徒たちは顔を上げまっすぐと視線を前に向ける。
「こんにちは!」挨拶とともに変人よる自己紹介が始まった。
生徒たちの手元にはプロフィールが配られ、変人に向けて質問したいことを考えながら話を聞くようにと伝えられている。
変人たちはプロジェクターを使いながら、世界一周の旅のエピソードを話したり、自身が経営している会社のビジネスのことを話したり。
はたまた手遊びゲームを始める保育士の変人も。
変人たちは、それぞれの空気を作っていく。

取材させていただいたのは、(株)オプンラボが運営する「近未来ハイスクール」。
近未来ハイスクールとは、多様な職業の第一線で活躍する「変人」と高校生をつなぐ“出る杭を育てる”キャリアプログラム。
今回伺った商業高校では、この日の午前中の時間を使って6クラスで授業を行った。
この高校の生徒の卒業後の進路は、約半数が進学、あとの半分は就職の予定だ。変人たちの自己紹介が終わると、次は生徒たちからの質問をする時間だ。
「モテますか?」「どうして大学を中退したんですか?」「落ち込んだ時はどうしてますか?」大人向けのセミナーやトークショーで出てくる質問とは違い、ちょっとした疑問がまっすぐ質問になって飛んでくる。
変人と生徒たちの対話が進んでくると、こんな質問もでてくる。
「○○さんの会社で人を採用する時に、僕たちに求めるものって何ですか?もし自分が就職した後に合わないと思うのは嫌で。こういう人が欲しいって初めから分かっていたら、そうなれるように自分でも努力できると思うんです」

どんな会社?

――オプンラボは、どんな会社ですか?
2010年に立ち上げて、主に企業の広報やマーケティングのお手伝いをしています。
特にイベントやコンテンツ作りが得意な会社です。
例えば「今こういうトレンドがあるから、こういうサービスをご紹介します」といったような情報発信型で、その人をより魅力的に見せる、サービスを分かりやすくお伝えするような形で紹介しています。
設立当初は元々の知り合いのマーケターや、メディアで見て良いなと思った方などにお声掛けして、ビジネスの話をしてもらう勉強会を定期的に開催していました。
そうこうしているうちに、企業の記念イベントや、クライアント企業さんへの取材、VC(ベンチャーキャピタル)のその先の出資している方への取材などの今の仕事に繋がっていきました。

代表取締役 小林利恵子さん

はじめたきっかけ

――近未来ハイスクールをはじめたきっかけを教えてください。
3年前、自分の娘の中学校で、大人に職業インタビューするという宿題がありました。
こういう仕事をしているので紹介できる大人はたくさんいたのですが、その時は4人の大人に会わせてみました。
そのうち2人はきっと娘も興味があるだろうイラストレーター、建築家の女性。
あとの2人は、人見知りの彼女にとっては絶対に興味がないだろう新聞記者、高校教師でした。
その時、娘がどう思ったかとは別に、会ってもらった大人たちの対応にすごく驚きました。
中学生相手にとても丁寧に話してくれたんです。
「これはうちの娘だけじゃもったいなかったな。またいつか若い世代に繋げるということをやりたいな」とずっと思っていました。
娘に会わせた高校の先生とは定期的に情報交換や勉強会を一緒にやっていて、ある時話をしていたら東大がやっている学生と社会人のキャリアイベントのようなものをやらないかという話になりました。
そのイベントは、学生全体の人数は何百人といるけれど、講演会のような1対何百というものではなく、4~5名の少数のグループに分かれて対話型でじっくり話ができるようになっていて。
最初は学生をランダムにシャッフルしてグループ分け、次の時間では公務員、起業家などのカテゴリーに分かれて興味のあるところに行って話を聞くというものでした。
自分の興味を深堀りできるし、視野も広がる。
それは面白いねということで、2017年の3月に初めて近未来ハイスクールを開催しました。
当日は大人26人と50人近い生徒、保護者や他の学校の先生もオブザーバーで来てくれて、すごく面白かった、すごくいい活動だから頑張ってと言われて、続けてみることにしました。

― 一方的な授業ではなく、高校生と大人の「対話」というのを意識しているのはどうしてですか?
自分の子どもを見ていて思ったのが、高校生になると会話がぐっと面白くなるんです。
一人の大人になっていく。
なので、大人が一方的に自分の持っているものを出して終わりじゃなくて、対話を通して大人も学び、刺激を受けるというものをやりたいと思いました。
それと世の中にある職業をほとんど知らずに卒業して就職してしまう、または何となく進路を決めてしまうという子たちにとって、色々な仕事の話を聞く場を作ることで将来を考える参考になれば良いかなと思っています。

対話から生まれる変化

―近未来ハイスクールではどんな対話が生まれますか?
そういえば、最初の授業の時に双子の男の子たちが来ていて。
一人はエンジニアになりたい、もう一人は建築家に興味がある。
最終的に二人は建築家の女性のところにじっくり話を聞きに行っていたんですけれど、その女性に「それぞれ得意分野が違うんだったら、エンジニアと建築家の二人で設計事務所をやればいいんじゃない?」ってアドバイスをもらったそうで。
その生徒たちはその後、勉強をすごく頑張っていますって先生から報告がありました。
あとは「なんでそんなに素敵な笑顔なんですか?」って聞いた子もいましたね。
実際に聞かれたその男性は、笑顔でいることを自分でも意識しているそうで。
「ニコニコしていると相手も話がしやすいし、ちゃんと鏡で練習して自分でもすごく意識しているんだよ」って話をしていました。
生徒が「そんなふうな笑顔の大人に会ったことがないです。電車に乗っていると、死んだ魚のような眼をしてスマホをいじっている大人ばっかりだったので、こんなに素敵な大人がいると思っていませんでした」って言
った時は、周りの大人がドキドキするっていう(笑)

変人からのメッセージ

――人気のある変人はどんなお仕事をされている方ですか?
そうですね。先生からも生徒からも、探偵です。この探偵さんはいじめの解決で活躍していて、NHKの番組などにも出ていますからやはり人気があります。
変人に共通しているのは、全員仕事好きなところです。
例えば会計士の人は「数字はコミュニケーション。財務諸表を見ていると、会社の健康状態がわかる」と話してくれます。
そうすると商業高校の生徒たちも「簿記って嫌いなんですけれど、頑張ってみようかな」って反応が返ってきます。
それと、生徒からの質問でよく出てくるのが、「ブラック企業ですか?」とか。
そうすると映像系の人たちは「お相撲さんたちが朝も晩も練習しているのを見て、誰もブラックとは言わないでしょ。若いうちは、経験やスキルを積んで色々出来るようにしなきゃいけないから、それはちゃんとしておいた方が良いよ。量をこなさないと質なんて伴わないんだから」って分かりやすいアドバイスをしてくれます。
大人でも転職などで新しい業界に入る時は同じですもんね。
それと医者や弁護士などバリバリ仕事をしている人たちもこれから繋げていこうと思っています。
こういう職業って記憶力というよりも、コミュニケーション能力が大事だったりします。
偏差値という枠で選ばれがちな職業だけれど、それだけじゃない。
そのあたりがちゃんと伝わっていくといいなと思います。

自分を認めてあげる

―働くことについて前向きなイメージを持てますね。
生徒の中には「まあ自分なんてこれくらいだから」という感じで自己肯定感が低い子が多くいます。
型にはめられるのも慣れているし、あまり自分を出さなくて。先生方は「むしろ生徒たちには外で話す機会がある方が良いんですよ」と言ってくれます。
だから「私、アイドルとかに興味がなくて古典とか好きだけれど、学校ではそういうのは話せないんです。」という子には「それは大事にした方がいいよ」というアドバイスをする変人にも出会えます。
ちゃんと自分を認められると強くなれますから。

企業コラボ

―企業とおこなっているコラボ回はどんな様子ですか?
以前、某大手楽器メーカーとコラボして、そこのメーカーの商品をもっと若い人に知ってもらう方法について考えるイベントを開催しました。
社員さんと高校生、変人の方々にはファシリテーターとして参加していただきました。
高校生からは、若い人向けのアパレルとコラボすれば良いのではという意見や、ブランドは気にしないけれどヘッドホンはみんなするので、もうちょっと目立つようにしたらどうですかなど、結構良い案が出て面白かったです。
今後は企業コラボを通してメディアだったり社会的にインパクトを残せるような形で組んでいけたらいいかなと思っています。

これからの
近未来ハイスクール

―今後やりたいことなどはありますか?
近未来ハイスクールのスタイルは、対話型とワークショップ型とがあります。
企業さんとこれからやりたいのが、1社の中から色々な部署の人たちが出てくるというものです。
会社って何をやっているか分からないじゃないですか。
組織があって企画があって、開発されて、マーケティングをしてそれを売る人たちがいるということがわかるようなことをやりたいです。
あとは以前、高専で近未来ハイスクールをやった時に、とある生徒が起業に興味があるという話をしていて。
後日、これを仕掛けてくれた副校長と会った時に「二人、あれをきっかけに辞めたんですよ。
でもいいのいいの、自分たちでちゃんと道を決めているんだから」と言っていて。
びっくりしましたが、若いうちに自分でいろんなところに目を向けて動く、それをやってもいいんだっていうことを、もっと伝えてあげたいなと思います。

多様化する学び場

ー学校以外でも生徒が学べる場って色々あるのですね。
今は変人と高校生を繋いでいますが、今後は親御さんもどんどん巻き込んでいくことをしていきたいです。
実は親も変人であることが多いので(笑)
PTAが活発なところと一緒に組むのも良いかなと思っています。
最近は働くお母さんも積極的にPTA活動をする方が多いようで、仕事は早いわ文章のクオリティが高いわで、変人たちも「うちで働いてほしいな」と言う人もいて。
これからは学校に全部お任せではなくて、みんなで作る教育になればいいなと思います。
最近では、高校の授業外で開催される探求型のイベントや授業でも、参加をすると単位として認められるという高校もあります。
また外での学習記録をレポートにして提出すると、大学受験のときに「こういうことを学びました」という実績にもなります。
ペーパーのテストだけでなく、そういうものも重視されるのもこれからの流れに必要になってくると思います。

変人コレクター
そしてひとりの母として

―あるまっぷの読者の親御さんに、教育という視点でメッセ―ジをいただけますか。
今の勉強って、パッと記憶してそれを転記できるっていうものばかりです。
それが役立つこともあるけれど、もっと考える機会を作っていってあげるのがいいのかなと思います。
まずは好きなことを伸ばしてあげる。
近未来ハイスクールでも、そもそも将来やりたいことの手前にある好きなことや興味のあること、そういうものをまずは大事しようと伝えています。
就職に良いから理系に行くとかじゃなくて、何が好きなのか。
大人だって最終的にはそこに立ち返って今があったりしているから。
それから子どもの中では「興味があるものもない」という子もいるので、そこは焦らなくていいのかなと思います。
まずは色々触れる機会をつくってあげるのが良いんじゃないかなと思います。

 

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