子どもたちの“近所のおばちゃん”になりたい

子どもたちの“近所のおばちゃん”になりたい

たいわ室 千代田区担当コーチ 星田 美紗さん

たいわ室とは、オンライン会議サービスzoomを使って、小・中学生が「聴く」プロである「コーチ」との30分間を、自由に過ごすことができる無料サービスです。パソコンやスマホなどの端末とインターネット環境があれば、自宅から気軽に参加できます。コーチは親でも先生でも友達でもない第3の存在として、子供たちとの時間を過ごします。今回は、千代田区在住のコーチである星田さんに、ご自身の子育て経験も含めてお話を伺いました。

 

♢星田さんがたいわ室と出会ったきっかけは?

母親から子どもへの何気ない会話が子供の可能性を奪うかもしれないことを聞いたのがきっかけで、子どもとのコミュニケーションについて学ぼうと思い立ち、4年前からマザーズコーチングスクールでコーチングを学び始め、マザーズティーチャーとして活動をしていました。そんな時、コロナの影響で学校が一斉休校になってしまい、他者との接触を制限された多くの子どもたちが孤独を感じているのではという危機感を感じたマザーズティーチャーのメンバー数人が、子どもたちのために何かできないかと考え、昨年の5月にたいわ室をスタートさせました。私は立ち上げメンバーではないですが、一緒に広めたいなと思い、コーチとして参加することにしました。

 

♢マザーズコーチングは、星田さんにとってどういう存在ですか?

自分自身の育児の軸を作っていけることを、マザーズコーチングで学んでいると日々感じます。子育てに悩むと正解を取りに行ってしまうお母さんが多いです。育児本って結局ノウハウだったりしますし。でも、子どもは百人いれば百通り違うし、そのノウハウが通用しない場合なんて多々ありますよね。正解だと言われていることが自分の子どもに当てはまるとは限らないので、モヤモヤしちゃう。マザーズコーチングを学ぶと、自分にとって最適な子育てとは何か、自分で考えられるようになっていくのです。

↑星田さんはなんと5人のお子さんのママ!!

 

♢マザーズコーチングを習っていて良かったと思うことは?

1つは、自分の自己肯定感が下がりにくくなることです。私の周りを見ても、子育てに罪悪感を感じているお母さんが結構多い。今日も怒っちゃったとか、今日もこんな言い方しちゃったとか後悔しているお母さんって結構いて。でも、マザーズコーチングを学んでいると、自分自身への声掛けも変わってくるので、今度はこうしてみようとか、過去に向けてではなく、未来へ向けた声掛けが多くなります。そうすると、子どもへの声掛けも自然と未来へ向けて考えられるようになってくる。また、とっさに何か言おうとした時に、「本当にこの声掛けでいいのかな?他に伝え方はないかな?」と3秒ぐらい待てるようになってきます。もちろん、待てない時もありますよ(笑)ただ、以前より自分を俯瞰して見られるようにはなっています。最初私は、自分の子どものためにと思ってマザーズコーチングを学び始めましたが、蓋を開けてみると、お母さんの心の状態をずっと整えておくことが最も重要だとわかりました。今、自己肯定感をあげるための育児が流行っているんですけど、結局はお母さんの自己肯定感=子どもの自己肯定感に繋がっているんです。だから子どものためにも、お母さんの心を整えてあげることが一番大切。自己犠牲しているお母さんが多い気がするのですが、そうするとやっぱり辛い。そうなってしまう気持ちもわかるんですけどね。ただ、心を整えようと意識することによって逆に生まれてしまうデメリットもあるかと。「ご機嫌でいたいのにいられない自分」もいるんですよね。なりたい自分になれないから、余計ストレスを感じちゃう。だからさらに、そのご機嫌じゃない自分も受け入れられるようになるために、私はコーチングの力を使っています。その結果、言い方は悪いかもしれませんが、私の場合は育児がものすごく「テキトー」になりました(笑)そのテキトーさがストレスになる人もいるので、テキトーになることが正解ではないんですけれど、私の中の正解は、今のところコレですね。

 

♢たいわ室での子どもとの接し方にも、コーチングと通じるものがありますか?

たいわ室のコーチは全員、マザーズコーチングスクールのコーチです。ですが、子ども達にコーチングをしようとは思っていません。たいわ室もコーチングも「聴く」ことが重要なのに変わりはありませんが、たいわ室は目の前にいる子がリラックスしていることが一番重要。話してもいいし何もしなくてもいい、ただそばに居るという空間を提供する場所でもあるんです。だから、お母さんとか大人に向けたコーチングとは違います。もちろん、相手が子どもだからこそ気をつけなくてはならないこともあります。子どもはまだ語彙力が未熟なので、質問ばかりしてしまうと、質問の答え以外は喋ってはいけないと無意識に思ってしまうことがあるんです。また、いくら優しい声色で質問していても、どうしても責められていると受け取ってしまう子もいるんですよね。ですから、なるべく質問はしないで、子どもの方から話し出せるような空間づくりを心がけています。例えば、学校どうなの?やお姉ちゃんどうなの?は、学校に行っていない子やお姉ちゃんの話をしたくない子にとっては、あまりしてほしくない質問になります。そういう話題の振り方で、すごく発想を狭めてしまうんです。私がよくやる方法の1つは、何を話そうか迷っている子に対しては、私自身の話しをすること。そうするとどこかしらで、向こうがピンってアンテナを張ってきてくれる時があるんです。例えば、自分の娘がピアノをやっている話をした時に、「あ、私も」って言ってくれたら、これは話しても良い話題なのかなってわかるじゃないですか。そういう話題を選ぶようにして、徐々に心の扉を開けていくようなイメージですね。

 

♢たいわ室で気をつけていることは他にもありますか?

コーチングのルールの1つに「アドバイスはしない」というのがあります。個人個人の考え方が悪いというわけではないですよ。でも、善意による思想の植え付けはあると思います。だからこそ、コーチングを学んで、なるべくフラットに話を「聴く」ことができるように訓練している者が対応しないといけないのだと思います。そうでないと、保護者の方や教育関係の方から信頼を得るのは難しいかもしれません。もちろん、子どもがアドバイスを求めている場合もあるので、絶対禁止ではないです。ただ、断定的な言い方はせずに、「私はこう思うよ」という言い方をします。あとは、AプランBプランCプランのように、いろんな考え方があることを伝えて、「絶対これがいい!」とは言わない。そうすると、子どもも自分で選択しようと思うし、もしくは他にもあるんじゃないかと思うかもしれない。同じことを話すのでも、アドバイスではなくて、情報提供として受け取ってもらえるような言い方をするようにしています。
あと、コーチに依存させないようにすることも大切です。仕組みとしても、特定のコーチを指名することはできません。最初の2回は同じコーチが担当するのですが、そのあとは別のコーチが対応します。やっぱりいろんなコーチと話した方がその子の視野も広がります。マザーズコーチングでも言われているのが、安心できる場所が多い子ほど自立できてチャレンジ精神が生まれる。帰る場所があるからこそ外に出られる。逆に失敗させないように守りすぎると、チャレンジ精神が低下してしまう可能性も……。その通りだと思います。たいわ室では、それもふまえて、子どもたちが「安心できる場所」を提供しています。

 

♢たいわ室の役割はなんだと思いますか?

たいわ室には、ただ話を聴いてくれる人がいます。コーチの立ち位置は、近所のおばちゃんみたいなものです。意外かもしれませんが、たいわ室で悩みを相談されたことはあまりありません。ゲームをしたりとか、折り紙を見せてもらったりとか……。うちの次女も利用者ですが、ピアノの練習の成果を見てもらったりしています。そんな感じで気軽に使っていただける場所なのです。私には2人、小さい頃に「たいわ」をしてもらった大人がいます。合唱団の先生と、塾の帰りに寄っていた神保町のたこ焼き屋のおじさんです。何が他の大人と違ったのかというと、2人とも私を子ども扱いしなかった。個として自分を受け入れてくれていた。その時の「たいわ」の経験が今の自分をどういう風に作ったのかというところまでは説明できませんが、何かしらの自信には繋がっているかもしれないですよね。そういう場が今は減ってしまっている。だからこそ、たいわ室は必要だと思うのです。いつか第3者であるコーチと過ごした経験が、その子の安心感として残ってくれたらいいなと思うのです。

↑星田さんのご実家は3代続く麹町のコーヒー屋さん「鈴木コーヒー」!!

 

それから、子どもの孤独を救う一つの選択肢としての役割もあります。全国的なホットラインはありますが、もっとハードルの低いものは意外とないのです。瀬戸際対策はちゃんとなされていると思いますが、「何かあったらここに電話」だと、何もなかったらかけちゃいけないと思ってしまいがちです。あとは、私みたいに子どもが多いお母さんとか、業務に追われている学校の先生方は、気になるけれどどうしても一人一人を見きれないというジレンマがあって。そこにたいわ室のような存在があると、何かあってもコーチに話を聴いてもらえているかなという、大人側の安心感にも繋がります。人間って涙を流してスッキリするのがストレス解消に良いと言われていますが、心のモヤモヤは言葉にして話すのが解消法として良いみたいで。私たち大人も、別に何を言って欲しいわけでもなくとりあえず話して、話しているうちによくわからないけれどスッキリすることがありますよね。子供たちも一緒かなと。

 

♢これから星田さんが挑戦したいことは?

まずは、たいわ室を多くの人に知ってもらうための周知活動です。近々では、「夏休みのたいわ室体験会」。学童などの子どもが集まるところで体験してもらって、もうちょっと話したいなって子には本申し込みをしてもらう流れですね。それから、まだ一度もたいわ室を利用したことない方を対象に「親子ではじめてのたいわ室」という企画も始まりました。親子で一緒にたいわ室を体験することで、次回から安心してお子様だけで利用していただけたら良いなと思います。

↑大好評だった学童での体験会の様子

 

千代田区の子育てブックなどでも周知できたらいいですよね。もっと大きいことを言えば、国の事業化もしてもらいたい。行政側から瀬戸際対策の100歩手前のものも必要ですよという案内があったらいいなと。今回あるまっぷで知ってくださった方も、持ち帰った先の地域からご参加いただいたり、周りの方に広めていただけると嬉しいです。(7月9日に取材しました。)

取材にご協力いただき、ありがとうございました!

 

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